問題修正から紐解く作問論

今からちょうど1年ほど前、これまでコツコツ作成してはフリバなどで出題してきた青問をきちんとまとめて問題集にしようと突然思い立ち、今年の初めに青問集『Clear Blue』を公開した。

ちなみに無料でダウンロードできるのでまだ読んでいない方は是非どうぞ。

 

自分が作ってきた問題たちと改めて向き合い、問題集として世に出しても恥ずかしくないものにしていく作業はなかなかに大変だったけど、その代わりに得られたものもたくさんあった。

第一に、問題集に収録する価値のある問題を選別するにあたって、「面白い問題とは何か」「この問題の面白さはどこか」ということを深く考えたので、普段の作問でもどのように問題を作成すれば面白くなるのかがわかるようになってきた。

第二に、問題文を手直ししていく中で文章表現の引き出しが増えたので、普段の作問でも文章がまとまらないという理由で没にすることが少なくなった。

第三に、問題ごとに細かい言葉遣いや表記にブレがあったのを統一することができたので、普段の作問でもその辺りで悩むことがなくなった。

 

で、ここからが本題。

そうした作業の中でふと、問題文をより良くより面白くするために修正を加えたとき、その修正には作問者のこだわりが表れているのではないか、という考えが思い浮かんだ。

というわけで、最近修正した問題をいくつか引用しながら、その理由を説明することでちょっとした作問論のような話をしてみる。

時間のある方は、修正前の問題を見て自分だったらどこをどう修正するか考えてみても面白いかもしれない。

 

 

Q.「虹の色を一つ、言ってみろ」と敵に問い、敵が色を答えると「虹の色は虹色だ」と言って理不尽に斬りかかる徳川虹宗を主人公とする、アニメ『多田くんは恋をしない』の作中で放送されている時代劇は何でしょう?

Q.主人公の徳川虹宗(にじむね)が「虹の色を一つ、言ってみろ」と敵に問い、敵が色を答えると「虹の色は虹色だ」と言って理不尽に斬りかかるという流れがお決まりである、アニメ『多田くんは恋をしない』の作中で放送されている時代劇は何でしょう?

A.『れいん坊将軍』

 

これは問題集収録にあたって修正した問題で、修正前の問題には改善すべき点が2点ある。

1点目は、「虹の色を一つ、言ってみろ」という印象的なキーワードから始まるのでピンと来た人はそこでボタンを押したくなるけど、落としが「~する主人公は誰?」なのか「~する徳川虹宗を主人公とする作品は何?」なのかは問題文の後半まで聞かないと判別できないという点。

わざわざ印象的なキーワードを前フリにしている以上、当然作問者としてはそこでバシッと押してもらいたいのに、実際の確定ポイントはその遥か後に配置されているというのでは期待通りの押しをしてもらえなくなってしまう。

2点目は、作品名を問うにしては主人公に対する説明が長すぎるという点。

問題文冒頭から「斬りかかる」までひたすら徳川虹宗の説明をしておいて、突然「を主人公とする作品は何?」と方向転換されてはひっかけ問題もいいところ。

この問題が生まれた原因は、「『れいん坊将軍』自体が作中作なのに、さらにその中の登場人物である徳川虹宗を問うとは考えにくいし、そう答える人もいないだろう」と決めつけて上記2点の考慮を疎かにしたことなので、再発防止策としては「かもしれない作問」を心がけることになる。

ちなみに、『れいん坊将軍』はそのネーミングだけで笑えるし、作中作とはいえ『多田くんは恋をしない』の重要なファクターなので、問題としてはまあまあ気に入っている。

 

 

Q.「巽町(たつみちょう)」「瀧ノ口(たきのくち)」「朧塚(おぼろづか)」など、作中ではドラゴンにちなんだ地名や固有名詞が多く用いられている、カンナカムイやトールといったドラゴンたちが登場するアニメは何でしょう?

Q.作中では、ドラゴンにちなんだ地名として「巽町(たつみちょう)」「瀧ノ口(たきのくち)」「朧塚(おぼろづか)」などが用いられている、カンナカムイやトールといったドラゴンたちが登場するアニメは何でしょう?

A.『小林さんちのメイドラゴン

 

問題集作成以降は基本的に修正の余地がない問題を作成し続けてきたつもりだったけど、つい先日作成・出題したこの問題は完全に失敗だったので出題したあとすぐに修正を加えた。

何が失敗かというと、「巽町」「瀧ノ口」「朧塚」という地名の列挙の部分でボタンが押されることは想定内だったのに、その後の問題文と解答を色々と想像したときに『小林さんちのメイドラゴン』という解答の選択肢は排除される可能性が非常に高いという点。

地名の列挙から最終的に作品名を問うような問題文を普通に想像してみると、"Q.「巽町」「瀧ノ口」「朧塚」などの地名が作中で用いられている、クール教信者の漫画を原作とするアニメは何?"というすごくつまらない問題文になるので、これは自分が解答者でも排除すると思う。

もちろんその後の問題文を完璧に想像できれば解答に辿り着けるけど、この問題で解答者に要求すべきは「ドラゴンにちなんだ地名」→「朧塚」という連想であって、「朧塚」→「ドラゴンにちなんだ地名」という連想はいくらなんでも無理がある。

ただ、今回は単純に考え足らずだったわけではなく、『小林さんちのメイドラゴン』が答えになる問題に対して、修正後の問題のように「ドラゴン」という言葉を冒頭で出してしまうのが憚られたという理由もあった、という言い訳をしておく。

 

 

Q.漫画『けいおん!』のタイトルロゴで「お」の字にデザインされている楽器はギターですが、漫画『けいおん!Shuffle』のタイトルロゴで「お」の字にデザインされている、主人公・佐久間紫(ゆかり)の担当楽器は何でしょう?

Q.かきふらいの漫画で、『けいおん!』のタイトルロゴで「お」の字にデザインされている楽器はギターですが、『けいおん!Shuffle』のタイトルロゴで「お」の字にデザインされている楽器は何でしょう?

A.ドラム(タム)

 

これもつい先日作成・出題した問題で、作問者のこだわりが裏目に出たために修正の必要が生じた珍しい例でもある。

基本的に問題には正解してもらいたいので、ヒントになり得る情報があれば出題後に解説するのではなく問題文に盛り込みたいと考えていて、たとえば修正前の問題ではタイトルロゴを覚えていなくても主人公について少し知識があれば正解できるようになっている。

ただ、「ロゴにデザインされている楽器」はドラムセットのうちタムの部分のみを指すのに対して、「佐久間紫の担当楽器」はドラムセット全体なので、若干のズレを孕んでしまうという弊害もあった。

それでも許容範囲と判断して出題してみたところ「ドラムスティック」という解答が出て、「ロゴにデザインされている楽器」としては明確に異なるので即×にすべきだけど、「佐久間紫の担当楽器」としてならドラムセットの一部なのでもう1回を取るべき、と正誤判定に困ってしまい、さすがに修正することにした。

問題に対して考えられる解答のパターンを想定する力がまだまだ足りないので、もっと経験を積まなければならない。

ちなみに、先頭に「かきふらいの漫画で、」と付け加えたのは、『ばくおん!!』に飛ぶ可能性を排除するという親切のつもり。

 

 

Q.アニメ『けものフレンズ』で、動物や動物だったものと反応するとフレンズが、無機物と反応するとセルリアンが生まれるとされている、ジャパリパークの山から噴出する物質は何でしょう?

Q.生き物や生き物だったものと反応すると「フレンズ」が、無機物と反応すると「セルリアン」が生まれるとされている、アニメ『けものフレンズ』で、ジャパリパークの山から噴出する物質は何でしょう?

A.サンドスター

 

これは作問という行為を始めてまだ半年くらいの頃に作成した問題ということもあり、問題集収録にあたって当然のように修正が入った。

早押しクイズというものは、問題文が読まれる前は万物が答えになり得るという状況から、問題文が読まれるにつれて徐々に考える対象が狭まっていくというのが基本構造であり、その過程が面白さにも繋がると考えている。

修正前の問題を見てみると、開始7文字で万物からいきなり特定の作品の中の話に限定されてしまっていて、「万物の中から自力で検索する」という解答者の楽しみを奪ってしまっている。

もちろん問題文には様々なパターンがあるので一概には言えないけど、今回のような問題文であれば作品名などの重要なヒントはなるべく最後の方まで伏せておきたい。

 

 

Q.三星(みほし)めがねの漫画『恋愛暴君』でグリが所持している、名前を書かれた者同士は24時間以内に必ずキスをするという効果をもつノートの名前は何でしょう?

Q.名前を書かれた者同士は24時間以内に必ずキスをするという効果をもつ、三星(みほし)めがねの漫画『恋愛暴君』でグリが所持しているノートの名前は何でしょう?

Q.三星(みほし)めがねの漫画『恋愛暴君』でグリが所持している、名前を書かれた者同士は24時間以内に必ずキスをするという効果をもつノートの名前は何でしょう?

A.キスノート

 

この問題は修正前の状態で問題集に収録されていて、先日たまたま問題集を開いたときに前の問題で言ったことが守られていないことに気付いて修正したけど、その数分後に修正前が正しいと思い直して元に戻したという複雑な経緯がある。

なぜ前の問題と同じような問題文なのに修正の必要がないかは、2つの問題の出題意図を比較すると明らかになる。

前の問題は「サンドスターは多くの人が知っている」という前提からスタートしていて、そこに対して知識を必要とする前フリを付けた問題。

一方、この問題は「キスノートを知っている人は少ない」という前提からスタートしていて、知っている人がいればもちろん知識で答えてもらっていいし、知らない人は知らない人で推測による解き筋があるということが特徴の問題。

つまり、「『恋愛暴君』でグリが所持していること」は知っている人が知識で答えるためのヒント、「デスノートに似た効果をもつこと」は知らない人が推測で答えるためのヒントであり、当然知らない人よりも知っている人に早くボタンを押してもらいたいと考えると、前者を先に配置するのが正しいということになる。

このように、まったく違うアプローチで作成した問題が結果的に同じような文章構造になることもあるので、特に昔の問題を修正する際は細心の注意を払わなければならない。

 

 

というわけで、問題修正という行為に着目することで、普段自分が作問するときに考えていることの一部を文章化してみた。

実は2年前くらいから解答側よりも作問・出題の方が楽しいと感じるようになってきていて、中でも従来は面倒に思っていた成文化・裏取り・ブラッシュアップなどの下流工程に今では楽しみを見出している。

まあ、プレイヤーとしての自分にあまり期待できないというネガティブな動機もあるけど、それは置いておくとして…

問題集作成をきっかけにその思いも大きくなり、とうとう作問論のようなものを語るところまで来てしまった。

とはいえ未だにクイズ経験が圧倒的に浅いので、もっと積極的にクイズに触れることで自分の作問の糧にしていきたい所存。

これからも良い問題を作れるように頑張っていきたいと思います。