やはりオタクたるものアニメを語らなければ生きている意味がないと思い立ち、久々に怪文書をしたためるべく筆を執った。
そして、今最も語れるアニメといえばやはり劇場とBD合わせて20回以上は視聴している『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』だろう。
この記事では本作を4つの観点から考察する。
一歩踏み出す前の久美子の幻影
『私、久美子先輩は私と同じだと思っていました。』
たしかに、奏と(特に一年前の)久美子はとても似ている。
いい子の皮を被りながら、一歩引いて感情的にならず、ただ頑張っても意味ないということをわかっている。
その一因となっているのが、二人が中学時代に共通して経験した、先輩との軋轢だ。
二人とも、その実力ゆえに先輩を差し置いてコンクールメンバーに選ばれ、結果として周囲の反応に心を痛めた経験がある。
ただ、二人の決定的な違い、久美子にあって奏にないもの、それは北宇治高校で過ごした一年間。
ー麗奈が胸に秘める「特別になりたい」という思い
ー強い憧れを抱かせてくれた、あすかの大きな背中
ー図らずもコンクールメンバーの座を奪ってしまった自分に気を遣ってくれた夏紀の優しさ
それらに触れて久美子は大きく成長し、一年前の、一歩踏み出す前の久美子は、徐々に久美子の中から消えていった。
そこに現れた奏という存在は、今もなお久美子の中にわずかながら残存する、一歩踏み出す前の久美子の幻影のようであった。
そして、その奏から『悔しくて死にそうです!』というセリフを引き出すことは、久美子の中から一歩踏み出す前の久美子を追い出すことを意味しており、また一回り成長した久美子は吹奏楽部部長にふさわしい存在となった。
認められる「あの時の頑張り」
『頑張るって何ですか?』
どんなに頑張っても、結果が出なければ認められない。
頑張ることそのものには価値なんてない。
中学時代の経験からそう悟った奏の悲痛な叫びとも言えるこのセリフ。
『だって、奏ちゃん頑張ってきたんだもん。』
しかし、頑張れば何かがある、それは絶対無駄じゃないと信じている久美子は奏の頑張りを認める。
『えっ…』
奏の口から零れたわずかな声と表情が、すべてを物語っている。
ー誰も認めてくれなかった私の頑張りを、認めてくれる人がいるんだ
ーあの時の頑張りは、無駄じゃなかったんだ
奏は感極まり、涙が溢れる。
あの時の頑張りが認められ、報われたこの瞬間こそが、奏にとっての「私の始まり」になったことだろう。
鈴木美玲が抱いた苛立ちの正体
『葉月先輩とか正直、私より下手じゃないですか。なのにあんなに楽しそうで…』
このセリフの通り、美玲は決して、さつきと葉月の実力不足に呆れ果て、苛立っていたわけではない。
たとえ実力不足でも皆で和気藹々と部活を楽しむチューバの面々に対する憧れと、堅物で素直になれない性格ゆえに溶け込んでいけない自分に対する嫌悪の念が、モヤモヤやイライラを生み出していた。
しかも、彼女はその状況を「皆はさつきばかりを可愛がって、自分は実力があるのに評価されていない」とさえ思い込んでしまう。
陸上競技場の片隅で、久美子がこの2つの問題を解決する。
後者に対しては、『美玲ちゃんは勝手に決めつけて壁を作っているだけだと思う。』とズバリ。
そして前者を解決したのが、『まずはみっちゃんって呼んでもらったら?』という提案だった。
奏は思わず『はぁ~?』と可愛い声を上げるが、この根拠は演奏後に久美子の口から語られる。
『美玲ちゃんは変わりたかったんじゃないかな。本当は皆と仲良くなりたいって。』
つまり、「みっちゃん」というあだ名を受け入れることで、堅物で素直になれなかった自分を変革し、皆と仲良くなりたいという意思を暗に示すことに成功したのであった。
恋する久美子
TVシリーズでは、秀一が気の毒になるほどに、愛だの恋だのには無頓着な人間として描かれていた久美子。
そんな久美子も秀一からの告白を受けることで、恋する乙女の可愛さが垣間見えるようになる。
まず告白されて顔を赤らめるところがもう可愛いし、二人の関係性を奏にからかわれて慌てふためく様子も可愛いし、自分がプレゼントしたキーホルダーをきちんとスマホに付けている秀一を見て『よしよし』とほくそ笑むところも可愛い。
そんな中気になるのが麗奈との関係性だが、あがた祭りのあとに秀一と別れてまで麗奈に会いに行ったことからもわかる通り、たとえ秀一と恋仲になっても麗奈との関係性は不変であることが再確認できた。
元々、麗奈の思い人が滝先生であることはすでに明かされているわけなので、「愛の告白」さえ交わしたものの、久美子と麗奈の関係性は恋愛感情とは一線を画すものだということだろう。
なお、この件については『TVアニメ「響け!ユーフォニアム」オフィシャルファンブック』において、原作者の武田綾乃からも以下のように語られている。
ですから、秀一も特別なんだけど、久美子にとって麗奈はその上をいく存在として描いています。この先、秀一が特別な異性でなくなることはありえますが、麗奈との関係は不変なんです。
最終的には一旦距離を置くことにした久美子と秀一だが、あの二人のことだから、来年部活が全部終わったらもう一度ヘアピンを渡すのだろう。
というわけで、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を語り尽くしてみた。
書きたいことを書いていたら文章があまりまとまらなかったので、読みづらかったら申し訳ない。
でもやっぱりこういう行為こそがオタクとしての「生きていく意味」なんだろうな。
また機会とモチベーションがあれば他の作品も語ってみようと思います。